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結城晴と、壊されるべき「偏見」

U149二巻発売から1週間程度が経ち、ようやく長めの文章が打てる程度に平静を取り戻したので今日まで考えていたことを書き留めておきたいと思う。

2018年1月25日、結城晴に声が付いた。確か「純情midnight伝説」辺りでデレステを始め最初の10連SRで出逢った記憶があるので、そこから1年半ほどになる。愛媛エリアボスとして初登場した時から追っている人は実に4年8ヶ月。ガトーですら3年待ったことを堂々と表明していた事を考えると途方もない年月である。先人の皆さんには頭が上がらない。そして本当に、おめでとうございます。

※注※ この記事には個人的解釈、特訓コミュ・U149本編諸々のネタバレを多量に含む。気になる人はU149本編だけでもいいので読んでくれ。タダだから。頼む。また、カッコ内は出典を示している。

 

 出会いと、アイドルへの「偏見」

結城晴。12歳。属性Co。趣味はサッカー。四国は愛媛の生まれ。切れ長の目としなやかな頭髪は、「将来絶対やばい美形になるオーラ」を既にバチバチに放っている。

結城晴を知る上で重要なファクターとして、「男ばかりの家庭」が挙げられる。具体的な家族構成は明らかになっていないが、「アニキたち」(デレステ・ルーム等)と発言していることから上に最低2~3人はいると考えるのが妥当だろう。そんな環境ですくすく育った晴は、当然の成り行きというか非常にボーイッシュな人格を形成している。

まず一人称「オレ」はシンデレラガールズ183名中唯一の呼称であり、初期Rで着ている象徴的な空色のパーカーは実はお下がり(ぷちデレラ衣装説明文)である。そもそも趣味のサッカーも兄の影響で始めたものであり(デレステ・R特訓コミュ)、その影響は随所に見られる。

さてそんな晴であったが、当初はアイドルという職業に対して相当乗り気ではなかった。初期Rの第一声が舌打ちから始まるのはこの人くらいであろう。

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親愛度虚数の様子。

というのも理由があり、志望動機が「晴のガサツさを案じた父が勝手に履歴書書いてオーディションに出しちゃった」というだいぶ乱暴なものだったことが開幕早々明かされる。そもそも望んでアイドルになったわけではないのだから、まあPに対して警戒心を抱くのも無理はないだろう。このあたりはデレステのコミュ1でも補完されているので各自参照されたし。

もうひとつ思い出してほしいのは「兄ばかりの家庭」である。恐らく周囲が男だらけの環境だったが故に、晴は「アイドル」そのものに直で触れる機会があまりなかったと筆者は推測する。兄達がそういったコンテンツに触れていた可能性も当然あるが、それをわざわざ妹に布教しに行くか、布教したとして妹が食い付いてくれるかと考えると疑問が残る。

父に無理矢理連れてこられたという抵抗心も手伝い、おそらく晴は無意識に「アイドルとは可愛い服を着て歌い踊るものであり、自分には向いていない」という偏見を心の中に作り自己防衛を図っていたのではないかと考える。上の『なんでアイドルなんかに…』という発言はまさにこの表れであろう。弱冠12歳故、致し方ない面もあるのだが。

 

今となっては腹を切りたくなるほど恥ずかしい話ではあるが、これはまさしく筆者が以前「アイドルマスター」というコンテンツそのものに抱いていた無知故の偏見と極めて酷似している。

アイマスの名前も、そこから派生したいくつかの作品の存在も知っている。リアタイの6話で周囲が騒然としていたのも覚えている。だが当時の自分にとってそこは、おそらく「自分に合わない場所」であるから近寄ることは無いであろうと思っていた「対岸」だったのだ。結城晴に出会い来歴を掘り下げる内にここに強烈なシンパシーを抱いてしまい、同氏の担当を決意させるに至った次第である。

なお、筆者はその後某所で偶然聴いたHotel Moonsideに激しい衝撃を受け、これが偏見を悔い改めデレマスの世界に入る大きなきっかけとなったのだが、ここについて書き始めると別個記事ができてしまうので今回は割愛させて頂く。

 

本当の「偶像」とは?

話を戻そう。偏見の中で釈然としないまま仕事をこなしていた晴であったが(弱冠12歳にして嫌々ながら仕事を並以上にこなせてしまうのは奴の恐ろしい所である)、初登場から10ヶ月後、3枚目のR【ロワイヤルスタイルNP】で転機が訪れる。

初めての本格的なステージ上での仕事。運動神経には自信のある晴であったが、そこで要求されるパフォーマンス水準の苛烈さを知る。アイドルとはかくも激しきものなのか。出番が終わり引き上げた晴は、思わずPに『本気でやるステージって、こんなにきついんだな』『アイドルって…すごくねーか?』と漏らす。ここで初めて、晴はアイドルへの認識を改めるのである。

 

この気付きから1ヶ月後、結城晴初のSR【疾風のストライカー】が放たれる。蒼に煌めく衣装を纏い、自信に満ちた双眸にもはや迷いの色はない。自らを苦しめていた「アイドル=可愛いもの」という偏見から抜け出し、初めて自らの意思で「アイドル・結城晴」を表現した決定的な瞬間である。

 

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余談だがこの衣装が本当に最高オブ最高なのでSSR出すときはこれの正統進化版みたいな感じにしてほしい。

その後も大好きなサッカーの仕事【明日へのフラッグ】やガムの仕事【フレッシュセレクト】を通じ、少しづつ「カッコ良いアイドル」のスタイルを学んでいく。 シルクハットに薔薇の花束という強烈なアクセサリーで武装し、後に無数のガチ恋勢を生み出したと語り草になる【オーバーラップ】も見逃せないだろう。

 

U149・結城晴編でも、まさにその「偏見」を壊される瞬間が描かれる。スカートを拒否し的場梨沙と喧嘩しレッスンルームを飛び出す晴。公園まで迎えに来た米内Pに、『アイドルはさ 何が面白いんだ?』と率直な疑問を率直にぶつける。ついでに不可抗力とはいえサッカーボールも顔面にぶつける。

米内Pの返しもこれまた痛快だ。「観た方が早い!」と乗り気でない晴をレイジー・レイジーのLIVEまで連れていく。Pには確かな勝算があったのだ。

会場の扉を開けた先にあったのは、混じり気なき観客の「熱」であった。純粋なる熱気。熱狂。昂奮。その渦中で鮮烈に歌い踊る一ノ瀬志希の姿に、晴の心は『まるでサッカーの試合』のように強烈に揺さぶられる。彼女の圧倒的パフォーマンスは、晴の疑問の解答として余りにも正しすぎたのである。

迷いを断ち切った晴は梨沙の元へ戻り、正面を向いて『オレだってステージに立ってみたい理由はできたからな』と言い放つ。まさしく結城晴4年8ヶ月の歩みを凝縮・象徴した台詞であり、このフレーズを真正面から描き切った廾之氏、CMで全面に押し出してくれたサイコミに今ここで絶大なる謝辞を述べたい。

 

youtu.be

 

その後の顛末については、敢えてここでは触れない。ただあなたの目で、結城晴と的場梨沙のフルスロットルがどれほどの破壊力を叩き出すかを見届けてほしい。

 

標榜する「カッコ良さ」

注意して読むべきなのは、恐らく「スカート(を含む可愛い衣装)自体を完全に克服した訳ではない」という点である。U149における晴の『ステージに立ってみたい理由』とは、つまり志希のパフォーマンスに圧倒されて発生した憧憬そのものであり、その前ではスカートを穿くことによる羞恥など些細なものである、と筆者は解釈している。

実際にデレステ・R特訓コミュでも、サッカーを始めた当時の自分を引き合いに出し『人にどう思われるかなんて考えてなかった』と振り返り、『今のオレ、あの時の気持ちと同じだ』『スカートは似合わないと思うし、女の子らしくってのもイマイチわかんねー。でも…』と続く。スカートへの抵抗<アイドルへの憧憬…という想いの力関係が見て取れる。

更に最新のSRである【モードストライカー】でも、『カワイイのはまだ勇気がいる』と述べている。「カッコ良い方が好き」「カッコ良くありたい」という指向性は、今も昔も変わらずブレていないのだ。

この辺りが、一人称オレ・スポーツ経験者・複数の兄と多くの共通項を持ちながら「元からアイドルに興味があった」永吉昴、そして「本当は可愛いことがやりたい」と悩む菊地真との決定的な意識の差と言えるだろう。(無論、どっちがいいとか悪いとかではない)

メチャクチャ穿った見方ではあるが、杏仁豆腐先生が「765へのアンチテーゼ≒真とは全く異なる路線のボーイッシュ枠」としてシンデレラに送り込んだのが実は結城晴なのではないか?とすら筆者は考えている。「可愛い仕事がやりたいのにカッコ良い仕事ばかりが来て悩んでいる」という真の悩みを180°反転させるとまんま初期の晴である。メチャクチャ穿った見方だが。

 

 

 

以上から、筆者は結城晴というアイドルをシンデレラガールズ史上最もアイドルらしくないアイドルと定義している。というかバッキバキに踊れてハチャメチャに顔が良いけどスカート嫌いな小6なんて前代未聞もいいとこである。そいつがこれから喋り出す。歌い出す。絡み出す。そして「アイドルマスター」の看板を背負い、トラックで街中を走り回る。まさしく大衆の「アイドルとは可愛い服を着て歌い踊るもの」という偏見を叩き壊して尚余りある強烈なインパクトを持つと筆者は確信している。

ビートシューターの相方・的場梨沙から受けた影響とU149で描かれた意識の差、デレステ・SR特訓コミュで標榜する『ファンタジスタ』、無意識に周囲に気を配れる異様な俯瞰力の高さ、声を務める小市眞琴氏など、まだまだ書きたいことは山ほどあるがこの辺にしとかないと筆者の文章力では収拾不可能になってしまうのでこちらも割愛させて頂く。 

 

かつて偏見を覆されたサッカー少女は、今ステージに登り偏見を破壊する側に立った。

1人でも多くの人間が衝撃を受けてくれるなら、筆者は本望だ。